日本人はまじめで勤勉だというイメージが世界には定着しているといいます。外国でも長時間休みなく働くという点では、勤勉ともいえるでしょうが、日本人は質が違うと思います。日本人は一所懸命働くことが単なる金儲けのためだけではなく「仕事が自己実現の場」として捉え、職場が自分を磨く場、自己成長する場、そして自ら作り出す製品に心を込めお客様(それを使う人)に喜んでもらいたい、喜んでもらうことにより、作り甲斐を感じてゆける真に「匠の精神」がそこにあり、一種の信仰、祈りに近いものがあると思います。
その精神性は、古来縄文時代から弥生時代の米作りを経て、脈々と日本人の心の底に流れているものです。米作りは弥生時代からですが、それ以前も栗や果樹など自家栽培は行っており、定住生活(ムラの形成)を縄文時代もしてきました。
農耕という意味では日本人は何万年も農耕の民であり、自然と共に生きてきた民族です。自然と共に生きる上で大切なことは自然に学び、自然を生かす、自然を自らの生活に取り入れること、いや自らの生活を自然のあるままに、なすがままに受け入れてゆくものです。欧米のように1週間単位で日時を図り、人為的に休日を決め働きと休み(遊び)を分離して捉えるという習慣はありません。月の満ち欠けで日時を図り、月の満ち欠けによりやるべき作業を決め、雨が降れば家の中、雨が上がれば屋外で曜日など関係なく働き詰めでした。働くということと休む(遊ぶ)ということが一体統合された生活、遊動一致の生活がそこにあります。
明治5年(1872年)太陽暦が、明治9年(1876年)から七曜日が取り入れられ、土曜日は半休、日曜日は全体という制度が作られました。
1週間が7日というリズムは宇宙、自然のリズムではありません。
1週間が7日というリズムが良いなら、1ヶ月も30日とか31日ではなく、28日とか35日とかにしなければリズムは合いません。日本人のリズムは、自然のリズムは月の満ち欠けです。
新月から望月まで、そして次の新月まで約29.5日、月の満ち欠けのリズムで日本人は何万年も過ごしてきました。月の満ち欠けによってもたらされる潮の満ち引き、これによって漁業は生計を立ててきました。また満月という現象は、太陽と地球と月が一直線に並ぶことで、太陽や月の影を最も地球が受ける日でもあり、水分60%で出来ている人間の身体も、地球と同じように太陽や月(自然)の影響を受けやすいのです。事実、満月の夜は産婦人科の病院は緊張すると聞いたことがあります。
仕事をこなす上では月の満ち欠けは大切ですが、1ヶ月29.5日ですから、年によっては13ヶ月になる年もあり、大陰暦では季節の変化を捉えることはできません。これは太陽に求めるしかありません。地球は365日かけて太陽の周りを一周します。この一周を区切って季節を感じ、季節の変化を生活に生かしてきました。日本本来の暦は太陽暦でも大陰暦でもなく、その合わせもった大陰太陽暦です。
まず1年で一周する太陽を夏至と冬至の2至で2等分します。さらに、春分と秋分と「二分」し、4分割された中間に立春、立夏、立秋、立冬の「四立」を入れて八節に、一節は45日、これを15日ずつに3等分し「二十四節氣」とし、更にこれを5日ずつに3等分して、時候を表わすもの「七十二候」としました。
二十四節氣や七十二候は、毎年同じ時期に同じ節目が来るので、生活や作業の上で非常に便利なものであり、今も重宝されています。
しかも、そのネーミングが素晴らしいことに、感心させられます。我々の先祖がいかに自然を畏敬親愛していたかをうかがわせます。
農耕や漁業という仕事に心を込めるという日本人の勤勉さが、時の流れという自然の営みに対しても、心を注いでいたことを大切にしてゆこうと思います。以下、二十四節氣と七十二候をご紹介します。
◆◇◆七十二候◆◇◆
春
二十四節氣『立春(りっしゅん)』2月4日頃
・春風解凍(はるかぜこおりをとく)2月4日頃
・黄鶯晛院(うぐいすなく)2月9日頃
・魚上氷(うおこおりをいずる)2月14日頃
二十四節氣『雨水(うすい)』2月19日頃
・土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)2月18日頃
・霞始靆(かすみはじめてたなびく)2月23日頃
・草木萌動(そうもくめばえいずる)2月28日頃
二十四節氣『啓蟄(けいちつ)」3月6日頃
・蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)3月5日頃
・桃始笑(ももはじめてさく)3月10日頃
・菜虫化蝶(なむしちょうとなる)3月15日頃
二十四節氣『春分(しゅんぶん)』3月21日頃
・雀始巣(すずめはじめてすくう)3月20日頃
・桜始開(さくらはじめてひらく)3月25日頃
・雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)3月30日頃
二十四節氣『清明(せいめい)』4月15日頃
・玄鳥至(つばめきたる)4月5日頃
・鴻鴈北(こうがんかえる)4月10日頃
・虹始見(にじはじめてあらわる)4月15日頃
二十四節氣『穀雨(こくう)』4月20日頃
・葭始生(あしはじめてしょうず)4月20日頃
・霜止出苗(しもやみてなえいずる)4月25日頃
・牡丹華(ぼたんはなさく)4月30日頃
夏
二十四節氣『立夏(りっか)』5月6日頃
・蛙始鳴(かわずはじめてなく)5月5日頃
・蚯蚓出(みみずいずる)5月10日頃
・竹笋生(たけのこしょうず)5月15日頃
二十四節氣『小満(しょうまん)』5月21日頃
・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)5月21日頃
・紅花栄(べにばなさかう)5月26日頃
・麦秋至(むぎのときいたる)5月31日頃
二十四節氣『芒種(ぼうしゅ)』6月5日頃
・蟷螂生(かまきりしょうず)6月5日頃
・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)6月10日頃
・梅子黄(うめのみきばむ)6月15日頃
二十四節氣『夏至(げし)』6月21日頃
・乃東枯(なつかれくさかるる)6月21日頃
・菖蒲華(あやめはなさく)6月26日頃
・半夏生(はんげしょうず)7月1日頃
二十四節氣『小暑(しょうしょ)』7月7日頃
・温風至(あつかぜいたる)7月7日頃
・蓮始開(はすはじめてひらく)7月12日頃
・鷹乃学習(たかすなわちがくしゅうす)7月17日頃
二十四節氣『大暑(たいしょ)』7月23日頃
・桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)7月23日頃
・土潤溽暑(つちうるおうてあつし)7月28日頃
・大雨時行(たいうときどきふる)8月2日頃
秋
二十四節氣『立秋(りっしゅう)』8月7日頃
・涼風至(すずかぜいたる)8月7日頃
・寒蝉鳴(ひぐらしなく)8月12日頃
・蒙霧升降(ふかききりまとう)8月17日頃
二十四節氣『処暑(しょしょ)』8月23日頃
・綿柎開(わたのはなしべひらく)8月23日頃
・天地始粛(てんちはじめてさむし)8月28日頃
・禾乃登(こくものすなわちみのる)9月2日頃
二十四節氣『白露(はくろ)』9月8日頃
・草露白(くさのつゆしろし)9月7日頃
・鶺鴒鳴(せきれいなく)9月12日頃
・玄鳥去(つばめさる)9月17日頃
二十四節氣『秋分(しゅうぶん)』9月23日頃
・雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)9月23日頃
・蟄虫杯戸(むしかくれてとをふさぐ)9月28日頃
・水始涸(みずはじめてかるる)10月3日頃
二十四節氣『寒露(かんろ)』10月8日頃
・鴻鴈来(こうがんきたる)10月8日頃
・菊花開(きくのはなひらく)10月13日頃
・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)10月18日頃
二十四節氣『霜降(そうこう)』10月23日頃
・霜始降(しもはじめてふる)10月23日頃
・霎時施(こさめときどきふる)10月28日頃
・楓蔦黄(もみじつたきばむ)11月25日頃
冬
二十四節氣『立冬(りっとう)』11月7日頃
・山茶始開(つばきはじめてひらく)11月7日頃
・地始凍(ちはじめてこおる)11月11日頃
・金盞香(きんせんかさく)11月17日頃
二十四節氣『小雪(しょうせつ)』11月22日頃
・虹蔵不見(にじかくれてみえず)11月22日頃
・朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)11月27日頃
・橘始黄(たちばなはじめてきばむ)12月2日頃
二十四節氣『大雪(たいせつ)』12月7日頃
・閉寒成冬(そらさむくふゆとなる)12月7日頃
・熊蟄穴(くまあなにこもる)12月12日頃
・鱖魚群(さけのうおむらがる)12月17日頃
二十四節氣『冬至(とうじ)』12月22日頃
・乃東生(なつかれくさしょうず)12月22日頃
・糜角解(さわしかのつのおつる)12月27日頃
・雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)1月1日頃
二十四節氣『小寒(しょうかん)』1月5日頃
・芹乃栄(せりすなわちさかう)1月5日頃
・水泉動(しみずあたたかをふくむ)1月10日頃
・雉始雊(きじはじめてなく)1月15日頃
二十四節氣『大寒(たいかん)』1月20日頃
・款冬華(ふきのはなさく)1月20日頃
・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)1月25日頃
・鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)1月30日頃
代表社員 前原 幸夫